日本海溝の海溝底軸部には2011年のタービダイトの他にも,層厚が大きな細粒タービダイトが特徴的に堆積している.厚層タービダイト層間の堆積物に含まれる火山灰および残留古地磁気を用いた年代推定から,タービダイト層が享徳地震(1454年)および貞観地震(869年)に伴って堆積したものと考えられる.海溝底で歴史地震に対応するイベント堆積物が認められるのは38°N付近の南北100km程度の範囲に限られる(図)。このことから,歴史時代の超巨大地震の破壊域の空間的な拡がりが,2011年のものと同程度である可能性が極めて高い.
北部の海溝陸側斜面で得られた堆積物試料からは,約4,000年前までのイベント堆積層が検出された.これらの中には巨大地震に対応するもの以外に,中規模地震に起因すると考えられるものも含まれる.沿岸の津波堆積物記録には,深海底のイベント堆積層に対応しないものがあり,両者の比較から日本海溝沿いでの地震による津波と遠地津波の履歴を区別できる可能性があり,堆積物調査が地震発生履歴のより正確な解明につながると期待される.
図.深海底堆積物調査の結果得られた,過去に発生したSTT起源のイベント堆積物の産状.左端に過去3回の大地震の発生年代と乱流堆積層の層序の対応を示す.複数の調査地点から869年,1454年,2011年の大地震に対応する堆積層TT3, TT2, TT1を含んだ地質サンプルが回収された.こうした試料が回収された地点を図2中の青丸でしめす(Ikehara et al., EPSL, 2018より引用).