本震発生後に海陸で得られた地殻変動データを,マントルの粘弾性を考慮して解析することにより得られた余効すべり(地震後のゆっくりとした断層すべり)の分布を図に示す.プレート境界深部も含めて,地震時すべりが大きかった領域を避けるように余効すべりが発生していることがわかる(図1).
こうした広域での分布を推定すると同時に,プレート境界の最浅部でのすべり状態を明らかにするために,日本海溝の海溝軸を跨いだ基線の長さの連続観測を実施した.STTが発生した中部におけるのべ約2年間の観測からは,顕著な変動は捉えられなかった(図2).地震後もプレート境界でのすべりが継続して進行していれば,海溝軸を跨いだ基線長は短縮することが期待されるため,この観測結果は,短期的・過渡的な現象も含めて,大規模SST発生域での断層運動はすでに終息したことを意味する.一方で,余効すべりが進行している南側の領域で同様な観測を実施したところ,基線が短縮する傾向が認められ,こうしたすべりがプレート境界最浅部にまで及んでいる可能性が示唆される.
この海域で実施した海底地震観測からは,活発な低周波微動活動が繰り返し発生していることが明らかとなった.余効すべりそのもの,またはそれが励起するゆっくりすべりによって,こうした微動が発生していると解釈される.
プレート境界浅部での断層挙動の特性は,東北沖地震発生以前のプレート境界断層の活動からも明らかとなった.東北沖地震後にゆっくりしたすべりが発生していないSTT発生域でも,東北沖地震発生の直前には連鎖的なすべりの加速が起こっていたことが明らかになった.STT発生域の外側においては,数年周期でゆっくりしたすべりの速度が加速と減速とを繰り返し発生していることが明らかとなった.北部では,東北沖地震後も継続して周期的なすべりの加減速が認められ,この領域のプレート境界浅部の特徴を表すものとして注目される.
図1.2011年東北地方太平洋沖地震時および地震後のすべり量分布.橙線:地震時すべり20m,赤線:地震時すべり50m.カラースケールで2011年5〜12月の間の地震後すべり量を示す.実戦は日本海溝の海溝軸の位置.星印は東北沖地震の震央.
図2.東北沖地震震源域内の海溝軸を跨ぐ基線長さの時間変化(2014~2015年).2つの基線での結果を示す.赤線は太平洋プレートが8cm/年で沈み込むことで期待される基線長変化.